第8章 ライフスタイル  目次のページに

ライフスタイルという言葉は普段の生活の中でよく使われる。「家具を買おうと店にいって探してみたら自分のライフスタイルにぴったりしたものが見つかった」とか「痩せるためにはライフスタイルから変えてゆかないとだめだ」などと使われる。このように、個人や集団の衣食住、趣味あるいは余暇の過ごし方など習慣的な生活行動・生活構造・生活意識をライフスタイルという。消費行動の研究というと、ともすれば特定の商品やブランドに焦点をあてて考えがちだが、いうまでもなく消費者は生活の中でいろいろな商品を相互に関係づけながら購入し消費している。つまり生活の中では一つ一つの商品が独立しているわけではなく、生活体系として相互に関係づけられている。この相互の関係づけにこそライフスタイルが重要な役割を果たしている。この章ではライフスタイルとは何か、その測定法、マーケティングにおける意味などを考えてゆきたい。
8.1 ライフスタイル
ライフスタイルとは「生活行動、関心事、意見など生活の仕方」(ピーター・オルソンPeter and Olson 2001)である。つまり人々がどのように生活しているかである。
ライフスタイルは、例えば、年齢とか男女など性別によって異なるし、あるいは価値観など心理的なもので異なってくる。他方、ライフスタイルによって商品購入や消費の仕方が異なる。既に述べてきたように、価値観やパーソナリティが直接的に購買行動に影響を与えることもあるが、その価値観やパーソナリティによって形成されたライフスタイルが消費に影響を与えることも多い。例えば社交的なパーソナリティの女性は行動範囲が広く、アクティブなライフスタイルの日々を送っている。アクティブゆえに買い物をするときに、はじめに訪れた店ですぐに決めて買うよりも、何店か店を回って慎重に選ぶような行動をするだろう。パーソナリティに基づくライフスタイルの方が直接的に消費行動に影響をあたえると考えても間違いない。 


表    ライフスタイルのフレーム(ホーキンス)


8.2 ライフスタイルの測定
ライフスタイルには、広義に捉える場合(全般的なライフスタイル)と狭義に捉える場合(特定の生活領域のライフスタイル)がある。広義に捉える場合は、生活構造、生活意識、生活態度と、実に幅広い領域を捉える必要がある。さらに生活分野ごとにも考えなければ全般的なライフスタイルはなかなか掴めないものである。一方、狭義に捉える場合は、その商品分野、生活分野に特化して考えれば良いので比較的簡単に捉えられるし、その結果をマーケティング戦略立案に使うのも効果的である。

8.2.1全般的なライフスタイル
代表的なライフスタイル項目はAIO(態度、意図、意見)という枠組みで捉えられる。
(1)AIO
AIOは全体で300項目からなるライフスタイル項目である。行動(Activities) 関心/興味(Interests),意見(Opinion)と大きく3つのジャンル別にライフスタイルを表す項目を組み合わせたものである。



初期に使われていたこのAIO項目は実際にライフスタイル分析するには領域が広範すぎて不十分だったため次に述べるAIO改良版へと改善された。
(2)改良AIO
 従来のAIO項目があまりに生活に関わる一般的すぎる項目からなるために、これを用いてライフスタイルを記述しても消費活動との関連が明確にならなかった。そのため、より商品やメディアに密着したAIO項目が開発された。例えば商品に対する態度や商品の使用状況などをライフスタイル項目に取り込むようにしてより消費に結びつくような項目が考えられた。


AIO項目は膨大な調査項目からなり、通常は、その項目に対する個人の反応を因子分析を用いて、主な要因(因子)に整理し、その要因(因子)ごとの評点を用いて対象者をクラスター分析により分類し、ライフスタイルセグメンテーションを行う。そのセグメンテーション結果を基に、戦略作りに有効なライフスタイルを決定するという手順を経る。このような調査、分析はコスト上も時間的にもかなり手間がかかり、実際の戦略作りに機敏性を欠く。そこで実際には、次の項で述べるように、生活領域別のライフスタイルに限ってみたり、AIO項目のうちの重要なものだけに絞ってライフスタイルを記述したり、あるいは、次に述べるVALSという既成のライフスタイル分析のサービスを使うことが多い。
 AIO項目のうちの重要なものとしては、各生活領域の重視度、費用配分、時間配分、メディア接触がよく扱われる。例えば以下のような質問が使われる。
 「生活領域別」の重視度の質問例

あなたは、今後の暮らしの中で、どのような面に力を入れていきたいと思いますか。??この中から、特に力を入れたいと思うものを1つだけあげてください。



(3)VALSについて
VALSとはアメリカの調査コンサルタントSRIが開発したライフスタイル分析を応用した戦略立案のための分析システムである。VALSは1978年に米国人の価値観とライフスタイルを説明するために開発されたものである。1989年には消費者行動の予測をするためにスタンフォード大学、USCバークレー校などエキスパートの協力を得てVALS2へと改良された。VALS2はパーソナリティをベースにして人々のライフスタイルを分類し、このライフスタイルと購買行動との関連を明らかにしている。
日本でもJapan-VALS?としてリサーチが行われ市場を3つのモチベーションに区分された10グループに分けている。図がそのグループである。




http://www.tokyo.sric-bi.com/programs/vals/2.htmlより

8.2.2 特定領域についてのライフスタイル
 全般的なライフスタイルは生活領域をまたいで総合的に消費者を理解する上では役に立つものの、特定のブランドの戦略づくりには余り実用的ではない。その理由は、まずデータを入手してライフスタイルセグメンテーションすることが時間的にも経済的にも困難である。また例えばカップ麺のターゲット発見にライフスタイルを使おうと思っても、生活全般のライフスタイルがカップ麺の消費を分析する上で切れ味が良いとは必ずしも限らない。例えば、VALSの「伝統派アダプター」の人がカップ麺のような「非伝統的な」食品を避けるのか、あるいは伝統的な「味」なら好きなのか、あるいはそもそもそカップ麺の消費とは無関係なのか想像がつきかねる。そこで特定の商品ジャンルのライフスタイルを実務的に把握するには、その商品に関わる生活分野についてのライフスタイルを明らかにすることになる。
カップ麺を例にとれば、「食ライフスタイル」を明らかにするとか、仮にカップ麺を「間食マーケット」に位置づけるとすれば、間食ライフスタイルを明らかにすべきであろう。間食行動、間食意識などを中心に以下のような項目について調査し、ライフスタイル分析をすることになる。



8.3ライフスタイルの戦略への活用
マーケティング戦略においてライフスタイル分析を利用する価値は2つある。まず(1)消費者行動をより深く理解する事である。当該商品、ブランドを支えているユーザー層のライフスタイルを見抜くことによってブランドへのインサイトを強化するとができる。たとえばカップ麺を食べる人はいつも手間を惜しんでいるのではなく、食ライフスタイルとの関係を調べてみたら、、週末にはとにかく美味しいものを食べることを楽しみとしている「グルメ志向度が高い」人かもしれない。そうなるとカップ麺に求めることが「新しい味覚の冒険による気分転換」を考慮に入れなければ行けない。(2)第二の利点は、ライフスタイルを知ることにより、現在のブランドをどのように変えたらよいのか、新しい商品やサービスの可能性があるかなどを知ることができる。例えば口寂しいから何かクチにする「日常間食派」向けに、電子レンジでそのまますぐ気軽に食べられるカップ麺や自動販売機向けのコンパクトなカップ麺など新製品の可能性が見えてくる。このようにライフスタイルを知ることができると次につながる商品を発想することができる。
8.3.1ターゲットのライフスタイルを見抜く
 消費者を理解することは大切ではあるが、往々にして企業は自社の商品を中心に考え、その背景になる消費者のライフスタイルへの関心は希薄になる。当然のことであるが、消費者は商品を中心に生活を営んでいるのはなく、生活という大きい文脈の中に商品を埋め込んでいるのである。マーケティングプランナーは商品を理解すること以上にその生活背景を理解することが大切である。
 次のように、生活文脈の視点で商品を捉えることが大切である。
・その生活分野でその商品はどのような役割を果たしているのか
基本的な役割は何か。副次的か、象徴的か。実質的か、手段的か(安全、栄養)、「目的的」か(グルメ)。
・周辺の生活分野とどんな関係があるか ファッションスタイルや余暇の過ごし方との関係はどうなっているか
・その商品は生活の中でどの程度の価値を持っているのか。そのために経済的な、あるいは時間的な負担をどの程度許容しているか。
 では、ライフスタイルを見抜くにはどのような方法があるのか。グループインタビュー、ターゲット観察、家計簿(おこづかい)調査、日記解析などがある。
(1)グループインタビュー 生活者からのヒアリングやグループインタビューである。それも商品からはじめるのではなく、生活領域からはじめる。例えばカップ麺であれば、普段間食をとるのはどんなときか、どんな気分か、どの位の時間をかけるか、一人か、あるいは誰か他人と一緒か、どのような商品を消費するかといったことを消費者のディスカッションを通じて明らかにするのである。
(2)ターゲット観察 ターゲットと目される人間を観察することである。これはその商品に関わる場面でターゲットとなる消費者を観察することである。その商品を消費しているときの態度や消費の仕方、あるいはそのファッション等を観察することによって生活の中での意味を発見する事が出来る
(3)家計簿(おこづかい)調査 普段のお金の使い方はライフスタイルを規定する生活構造を示しているし、価値観の反映であったりする。従ってその商品に使っている金額だけでなく、それ以外の商品の購入などと比較しながら分析することによりライフスタイルにおけるその商品の位置づけがクリアになる。
(4)日記分析 その商品に関わる生活分野について日記を書いてもらって、その記述からライフスタイルにおけるその商品のポジションを明らかにするのである。この分析には「言語解析手法」が効果的である。 

 [日記の例] 一眼レフ・デジタルカメラのアウトドアライフについての記述
○月○日 今日は、少し足を伸ばして森林公園まで出向く。行きの電車の中では望遠付きのデジカメをちらちらと若者が見ている。・・・(中略)・・森林公園の中に入るとすぐうっそうとした林に入る。鳥の声がするがなかなか姿が見えない。こんな時は焦ったりせずにすこし立ち止まる。耳を澄まし、感受性を高めるようにする。さらに呼吸を深く静かにする。まるで瞑想のようだ。次第に鳥の声が大きく聞こえだし動きを感じられるようになる・・
・(中略)・・・静かにカメラを上げて鳥にレンズを向ける。鳥に語りかけるようなつもりでファインダーを覗く。ファインダーはしっかりと鳥の姿を捉えている。カシャッという気持ちのよいシャッター音で・・・(後略)
  


8.3.2 ライフスタイルの利用
ライフスタイルのアプローチは、消費者理解に用いられるだけではなく、以下のようにマーケティング戦略の多様な側面で活用できる。
(1)セグメンテーション
 ライフスタイルアプローチがよく利用されるのは市場細分化戦略である。効果的なマーケティング戦略を作るには、消費者をニーズや行動の違いによっていくつかに細分化する必要がある。これが市場細分化、セグメンテーションである。スポーツドリンクを例に取ってみると、スポーツ好きのアクティブなライフスタイルの人には疲労回復や水分補給効果の高いスポーツドリンクが求められるだろうし、街歩きや外出好きのライフスタイルの人には外で飲んでおしゃれな感じのものが求められ、また家でじっくり趣味の本を読んだりビデオを見たりするのが好きな人には、気分転換を促す少し刺激的なスポーツドリンクが望まれる。
このようにライフスタイルによって商品の利用動機やニーズが異なるのでライフスタイルアプローチで戦略を立てるのは効果的である。
 ところで効率的なセグメンテーションの基準として@各セグメントがセグメント内では同質であること、Aセグメントへのアクセス(接触)が可能であること、Bセグメント基準が測定可能、データの入手が可能であることC各セグメントがある程度のボリュームがあることが挙げられる。ライフスタイル項目もこの基準に対応して設定される必要がある。特にセグメントへのアクセスを考えるとメディア接触や外出行動などを項目に入れておく必要がある。
(2)ターゲット市場の決定
 セグメンテーションに基づいてターゲット市場をその中から選定する。その際には当該ブランドがそのセグメント市場で強みを発揮できること、そのセグメント市場が十分大きいこと、また将来的に市場の拡大が望めることを確認しなければいけない。
(3)ポジショニング
 ポジショニング戦略ではブランドの違いを明確にするような2軸を選定する。この軸の設定は、商品の機能的ベネフィット、情緒的ベネフィット、記号的(象徴的)ベネフィットなどを用いる。その際に@自ブランドが競合ブランドより良いポジショニングになるようなベネフィットの軸、A消費者が重視するベネフィットの軸を設定する。しかし期待するベネフィットは消費者のライフスタイルによって異なる。前述したようにアクティブなライフスタイルの人間にとっては水分補給機能が重要な評価基準であり、見かけやイメージはそれほど重視しない。反面外出時にちょっと喉が渇いたときに飲むスポーツドリンクは他人からどう見えるかと云うことを気にする。だからその飲料の記号的ベネフィットが重要になる。つまりポジショニングの軸はターゲットのライフスタイルによって異なるのである。ライフスタイルを的確に掴むとこのように精度の高いポジショニング戦略を作ることができる。
(4)商品コミュニケーション
広告などのコミュニケーション戦略には@訴求点とA表現方法を決定が求められる。
訴求点とは、広告の中で伝える内容である。企業サイドはどうしても色々と仔細にその商品の良さを伝えたいと望むが、効果的なコミュニケーションは簡潔・明快でなければならない。従って、伝える内容を十分に絞り込むことが大切である。何に絞り込むかはターゲットのニーズや期待するベネフィットを十分考慮しつつ、そのターゲットのライフスタイルではどのようなコミュニケーションに関心を持つかについての洞察が必要である。アクティブライフスタイル向けのスポーツドリンクでは「”ひと飲み”で体の末端までしみ通り体を活性化する」といったように、訴求点は機能的ベネフィットであるが、そのライフスタイルに貢献するような約束(プロミス)を提供する必要がある。
 表現方法は、訴求点を納得させるためにどのような説得法を取るかと云うことである。この方法論は無数にある。一つの訴求点に対して何十通り、何百通りの説得方法があるといってもよい。大きくは論理的に説得するか、イメージ的に説得するかの方法に分かれる。論理的といっても実証的にアプローチすべきか、論証的に話すか、データを用いるかなど実に多様な方法が考えられる。当然ライフスタイルによって説得されやすいコミュニケーションパターンもあるし、よく接触するメディアに応じて表現のアプローチが異なる。
実際にコミュニケーションを組み立てるのはマーケティングのプランナーではなく、クリエーティブのディレクターになる。そうなるとコミュニケーションターゲットのイメージを伝えるのにも単に年齢や職業といった属性だけでなく、ライフスタイルについて生き生きと表現するのが良い。このようにリアリティをもってターゲット像の描くについてもライフスタイル分析が役に立つ。


課題
都心部に近々できる巨大なショッピングゾーンにA社は3タイプのアパレルショップを出店することになり、この3タイプが「共食い」を起こさないようにライフスタイルによってターゲットを変えてコンセプト開発をしたいと考えている。VALSライフスタイルの考えを参考にどのようなプランニングをするべきか。下表を埋めてなさい。
A社の主な取り扱い品目は次の通り。またA社は海外調達部が充実しているので多くの商品の輸入が可能である。
 男性用、女性用フォーマルウェア 男性用、女性用カジュアルウェア、スポーツウェア
 子供用ウェア全般  バッグ(デザイナーズブランド、ビジネス)
 財布、小物いれ  ステーショナリー(高級文具類)、オフィス家具、高級家庭用家具
 カーテンなどインテリア用品 輸入高級食材