マス広告の「文脈形成効果」について

「広告の文脈形成効果についての考察」 鈴木宏衛 2010.11.15
はじめに
1 文脈とは
2 先行研究
3 「文脈志向」の背景
4 文脈の把握方法
5 広告効果モデルに文脈をどう組み込むか
参考文献

はじめに

 広告効果モデルは、従来「刺激」とその「刺激に対する直接的反応」というフレームにとらわれてきた。このように個人への直接的影響だけにとどめて良いのかというのが今回の問題意識である。

 広告心理の「集団効果」や消費者行動論における「Theory of Reasoned Action Model」にみるように、“広告が与えるだろう社会への影響”を推測して自分の行動の判断要素にする傾向はマス広告ならではの効果である。この“広告が与えるだろう社会への影響”はすなわち消費者の「社会的文脈」の理解である。

 たとえばソフトバンクの一連のテレビ広告は、「犬でも使える携帯」とアピールしているわけではないし、「SMAP好きはこの携帯を使って下さい」と説得しているわけでもない。「携帯を選ぶ時に機能や効用をもはや真剣に考えなくて結構です。自分の直感で好きに選べばよい(程度の)商品です。」という社会的文脈を作っていると考えられる。

 テレビなどのマスコミ広告ならではの広告効果をとらえるときには、特にこの「文脈形成効果」を重視すべきと考えられる。なぜならパーソナルなインターネットコミュニケーションではその情報が社会的に共有されているとは感じられにくいからである。


1 文脈とは
文脈効果とは「外界の刺激に対する認知が環境的な要因(文脈)によって影響を受けること」である。文脈は@物理的・心理的な環境とA認知的な環境とからなる。前者は購入場所の状況(明るい/暗いとか選択肢の数など)、購入行動にかける時間(朝昼晩とか「切迫しているか」どうかなど)であり、後者は、消費行動に関わる諸要素の認知的な構造である。ここで問題とするのはもちろんこの認知的な環境である。

たとえば若い女性であれば、「携帯を買うときは友人と相談すべきである」「今の時代、携帯はどのメーカでも同じ」というように。その消費に関わる「通念」といったものがある。こういう通念がブランド選択に強い影響を及ぼすことは自明であろう。またこういう通念の形成には、広告が寄与していると考えられる。平たく言えば「このブランドや消費活動は世の中でどう語られているか」を人々は気にしている。

認知的な環境をさらに精緻に見ると、広告など外界からの刺激を認知するときに人々は刺激をコンテクスト理解を通じてその意味を解釈している。たとえば、夜の暗いシーンでピカッとフラッシュが光ってその次に夜景に女性の表情がくっきり写った写真が出れば、「このデジカメは夜景をうつすのに向いている」と解釈する。この解釈のフレームはスキーマといわれ、言い換えれば「文脈」である。広告は刺激となって人々の記憶や態度に影響を与えているが、併せてスキーマを形成したり強化したりしている。

つまり、広告効果を考える際に、従来は刺激=広告解釈ととらえ、それが認知過程を経由して好意的態度や購入意向に結びつくと考えてきたが、広告を解釈するために用いられるスキーマ(文脈)が広告効果に重要な影響を与えている。


2 先行研究
広告心理学における「文脈」
 仁科らの「集団効果」*によると、人々はテレビ広告などのマスコミ広告を見ると、その広告
 内容が自分にとってどういう意味があるかを考えることにより、個人的に影響を受けると同時
 に、この広告は社会でどう受け止められるかを推量する。さらに繰り返し同じ広告に接するこ
 とにより、この内容が自分以外の他人にとって「通念」になるのではないかと思う。これが規範的な効果を
発揮するとしている。つまり他人がこのブランド、この商品、あるいはこの種の消費行動についてどのように
とらえているかが「文脈である」

・消費者行動論ではTheory of Reasoned Action Model (合理的行為理論または行動期待理論)がある。
これは意思決定の際に自分自身の行為の合理性と併せて、他人がその行為をどう受け止めるかという両面
を検討して決めるという考え方である。つまり世の中である行為がどう受けとられているかというのを重視す
るということであり、「社会的文脈の重要性」を述べたものである。

 上記の二つが社会的文脈の消費行動への影響を語っているのに対し、より認知心理学的な「スキーマ論」
も文脈の重要性をあらわすものである。スキーマ論は人々の認知過程を厳密にとらえたもので、刺激がその
まま認知されて記憶や学習になるのではなく、刺激がスキーマを利用して解釈され、その結果が記憶や学習
にむすびつくというとらえ方である。このスキーマは知識形成過程において外界の情報から作られる。


3 「文脈志向」の背景
消費者は文脈を重視する傾向が強まっていると考えられる。
その理由として次の3点が上げられる。
@インターネットを中心とした情報接触の圧倒的な過多化に伴い、消費者行動の認知、評価プロセスが複雑になったこと。
この消費情報の爆発に対して人々は
    -自動的、習慣的消費により認知節約を図る
    -評価基準や意思決定を他人に任せることにより認知節約を図る


A消費の成熟化により商品や消費活動に対して全般的に低関与化してきている。
   -意思決定の簡便化を図る
   -他律的な意思決定への依存(世の中の文脈に依存した意思決定)


B消費情報の精緻化の目的ではインターネットコミュニケーションを利用することが増え、その反面、共有情報メディアであるマス広告が「文脈」を知るためのメディアと使い分け意識が確立しつつある。
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