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授業評価2006 授業は思考のトレーニング
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担当科目 マスコミ論
     広告論A、B
     情報化社会論
     国際企業論
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<学生へのメッセージ>
 教員として学生に望むのは、自分で「考える」こと、「考え抜くこと」。よく考えるためには「考える技術」が必要である。授業では「考えること」、「考える技術」、「考えを発表する」ことに重視している。わたしの好きな言葉は「脳に汗をかけ」(野中郁次郎=「知的体育会」宣言)

◆授業評価とは何?
 このレポートの趣旨は「学生の履修に役立つ」となっている。しかしこれだけでは読者の学生もこのレポートが履修の何に役立つか分からない。どんな授業なのかはシラバスを読めば分かる。学生が本音で知りたいのは、科目選択に役立つか、科目履修に必要な素養などであろう。学生にとっては「単位が取りやすいか」が一番の関心事であろう。しかし、授業評価ではもちろんこんな項目はない。「実生活に役立つか」「趣味や教養の幅を広げられるか」という点についても余り明確な尺度はない。こう考えると「学生による授業評価」は教員自体には意義があるものの、学生にフィードバックしても余り意味がない。
◆授業評価の形骸化
 「学生による授業評価」は海外では当たり前に行われている。30年前に筆者が学んだフランスの経営大学院でも厳しかった。悪い評価が続くと教員は契約が打ち切られる。しかも一覧表で結果が発表される。一方学生に対する評価も非常に厳しく「欠席」したらまず失格、だから風邪なんかでは絶対休まない、どんな熱があろうと。レポートの質が低かったり、授業での発言がないと単位はもらえず、2科目落とせば即退学である、毎年1割は退学になる。それだけに教員も学生も良い授業に対するこだわりは強く、双方とも必死であった。
日本の授業評価は外国の制度を取り入れてはいるが半ば形骸化している。このレポートでは授業評価の前提となる「理想の授業」について考えてみたい。
◆理想の授業とは
「理想の授業」とは何か。「理想の授業」はその領域において必要な知識を獲得できることである。では知識とは何か。高校までの教育で知識といえば「記憶」に限りなく近い。記憶力、あるいは受験問題解法を記憶すること、これを試験で発揮できる人が学力があるといわれた。
 しかし本来、知識は「記憶したもの」ではない。記憶したことを「物事を考える」ために使いこなせることである。これは文学であろうと工学であろうと全く同じである。私の「マスコミ論」では、「議題設定効果」で世論が作られることを学ぶ。この用語やその考え方を理解しただけでは「知識」とはいえない。日頃接しているテレビ番組や新聞によってどのように世論が形成されるかを「議題設定効果」という概念を使って、自ら分析、予測できてはじめて「知識」が獲得されたといえる。
◆大学の授業は「考える方法論」を提供すること
 だから大学教育での知識とは「考えるための方法論」の提供である。固く云えば「概念理解」と「概念適用」である。
そこで「理想の授業」である。授業の中では、新しい概念を理解する過程と、その概念を適用する過程からなる。前者を「概念理解」、後者を「概念適用」という。
 ところで、従来からの授業の多くは、概念理解、あるいは単なる概念記憶にとどまっていて、「理想の授業」とはほど遠い。
なぜ授業が「理想の授業」にならないのか。いろいろ理由がある。まず「概念適用」を取り入れると学生が考え分析する時間が必要になり、教員が話す時間が減る、参加意欲が乏しい学生には全く効果がない、概念適用には教員を必死にならないといけないなどである。さらには「理想の教育」をするためには学生も予習、復習をしてこないと出来ないし、教員も柔軟に問題解決できる力を持っていないと出来ない。
◆授業を取る学生へのコメント
 わたしは授業で「概念適用」までこぎ着けたいと思っている。本当に授業の効果をあげるためには「予習、復習」が必要である。復習とは学んだことを読み返すのではなく、身の回りの出来事に当てはめて考えることである。仮に予・復習が出来ないなら最低限授業の中でこちらが投げかけた問題に積極的に挙手(パーティシペーション)することで学びの効果が出る。
◆わたしの授業の特徴
  国際企業論 海外の文化的価値観の知識獲得とビジネスへの適用
  情報化社会論 情報化が社会に与える影響の理解と情報化時代の知的スキル向上
  広告論A   広告の社会への影響・広告ビジネスの理解と「広告的」思考法の実践
授業評価結果
 「理想の教育」という視点に関わる評価項目は少ないが参考までにデータを載せる。
        数値は、「そう思う」+「ややそう思う」(%)

     国際企業論 情報化社会論 広告論A 全学平均
わかりやすさ 84 95 79 69
興味・関心 93 95 84 70
教員の熱意 91 100 86 80
知識・技術獲得 95 90 81 77
学習意欲の向上 83 78 78 64