参加型の授業のこころみ
〜パーティシペーションを引き出す〜
■授業評価について
金城に来るまでは、企業の仕事の傍ら、大学や大学院で教えていたが、期末に授業評価結果をもらうのは楽しみである。学生が自分の授業に対してどの程度満足しているかは興味深いし授業改善に生かせる。企業では成果主義が定着し、半期ごとに期初目標に対する評価が管理職から提示され、それに沿って次期の目標を立てる。企業ではそれがストレートに給与、賞与に反映され、昇格、降格につながる。
■授業の力点
金城に赴任して以来、学生の興味を惹きつけ、スキルを向上させる授業を実現することに力点を置いてきた。私の担当するビジネス系科目については、知識よりスキルがとりわけ重視される。つまり、観察・調査し、データを分析し、レポートを作成し、プレゼンテーションするスキルがきわめて大切である。従ってワンウェイの講義型では効果がないと考え、参加型授業の試行を続けている。今回は「国際企業論」を取り上げて、学生の評価と今後の課題について考えたい。
■「国際企業論」のケース
「国際企業論」は、文化とビジネスの関係を学び、異文化ビジネススキルを高めることを主眼としている。主にオランダの異文化経営論のG.ホフステードの考え方をベースにしたレクチャーをしている。授業は概念説明、海外の広告を使った事例提示、異文化ビジネスケースの紹介を行っている。この科目は年2回開講の総合教育科目であり、学生は文学部、国際社会学科、情報文化学科はじめ10学科程度の幅広い学生が履修しており、総数は50名強である。
■パーティシペーション(PT)を評価する
授業ではその日の授業内容に沿って概念的な解説を行い、その後ケース紹介、広告提示して異文化的な特徴について議論を行う。この場合に決して回答者を指名しない。私が学んだ海外のビジネススクールと同様、自発的に手を挙げて意見を言わせる。成績は本来試験50%、PT50%としたいが、現在のところPTを30%にしている。ただし、回数の多い学生には最終評価時に特別加点をしている。
PTに対する学生の反応には3タイプある。趣旨に賛同し積極的にPTを取る学生、賛同ではないが成績のために躊躇しながらもPTを取る学生、それと無関心・無視学生である。これにはこの制度に反感を持つ学生も含まれる。
PTの成績管理は、発言者にシールを渡し、コメントペーパーにそのシールを添付させ、後に学生の名簿に転記している。
■PTの分布
PTの結果は、13回の授業を通じて「PTあり」が25名(45%)に達し、発言者の平均発言回数は3回である。PTにより参加意欲が高まっていることが伺える。一方でPTゼロの学生が半数近くいる。発言できないことに挫折感を感じているかもしれないが、逆にそれがバネになるのではないかと期待している。この授業を公開授業にしたことがあるが、観察した多くの教員の方から面白い進め方だ、新鮮な驚きを感じたとの評価を得られた。
■効果
PT型授業のメリットはなんと言っても授業の理解度の向上である。次に学生の参加意欲が高まること、居眠りや私語はほとんど無くなる。教員が教室内を歩き回りながらPTを促すので授業への緊張感が高まる。さらには、教員以上に他学生の意見に学生は関心を示す。自然と集中度は高まる。
教員にとっては予測できない回答から授業改善へのヒントが得られる。
■問題点
双方向型なので時間が掛かることが最大の問題点である。概念を話す時間とPTとの時間配分のバランスに気を使う必要がある。
注意すべき点は「やっとの思いで手を挙げて発言する」学生の気持ちをくみ取ることである。誤った意見を出すこともあるが、「別の考え方もできない?」などと正解を誘導するような配慮が必要である。
■「学生の授業評価」
今回の「学生の授業評価」では、全項目で種類別平均より高く、「興味が持てる」、「理解しやすい」、「考えが広がる」、「後輩に推薦する」、「明瞭で聞き取りやすい」、「毎回出席した」の項目はとりわけ平均より良く(+0.5以上)、所期の狙いが学生から評価されたものと理解している。
最後にPT型授業「広告論」の授業を受けている学生のコメントを紹介して筆を置きたい。「私はいままで自分の意見を口に出すことも恥ずかしくて、人前で堂々と話すなんてできませんでした。しかし、きっかけは広告論の授業のパーティシペーションでした。少しずつ手を挙げて自分の意見が言えるようになりました。そのおかげで授業がとても楽しくなりました。(以下省略)」